大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和47年(行ウ)78号 判決 1973年10月02日

原告

本田義秀

右訴訟代理人

松本茂三郎

被告

運輪大臣

新谷虎三郎

右指定代理人

井上郁夫

外二名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

「原告の自動車損害賠償保障法(以下自賠法と略称する)第七二条に基づく損害てん補請求(西日本四六―八〇八および八〇九)につき被告が昭和四七年八月一五日付でなした保障事業から損害のてん補はしない旨の裁決を取消す。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二  当事者の主張

(原告の請求原因)

一、原告は、昭和四二年五月一九日寝屋川市大字仁和寺五〇二番地先路上において訴外石谷康郎、清水祐博ら運転の自動車が交通事故をおこした際の被害者であるが、その自動車の保有者が明らかでなかつたので、原告は損害(明細は別紙のとおり)のてん補を政府が行う自動車損害賠償保障事業から受けるべく、その請求を業務受託者である同和火災株式会社大阪支店にした。

二、被告は、原告の右請求に対して、昭和四七年八月一五日、「責任保険契約の締された車輛と無保険車輛との共同不法行為による事故と認められ、かつ、責任保険から支払がなされている。」との理由で、右保障事業からの損害てん補はしない旨の裁決をなし、その書面は昭和四七年八月二四日原告に送達された。

三、しかし、右裁決は、右保険車輛であるが保険証明書番号が不明であるにすぎないものを無保険車輛と誤認しており、また原告が責任保険から支払を受けた金額は、損害の一部をてん補するにすぎないのに、それ以上てん補する理由はないというのであるから、違法である。

四、よつて、原告は右裁決の取消を求める。

(被告の本案前の答弁)

被告は原告の保障請求に対して、昭和四七年八月一五日付の書面で、請求には応じられない旨の通知をなしたが、この通知は、自賠法第七二条の要件がないことを理由とする被告の単なる履行拒絶の意思表示にすぎず、原告の保障請求権の発生、消長に何らの変動を及ぼすものではなく、抗告訴訟の対象となる処分でも裁決でもない。また自賠法第七二条第一項は、自動車事故の被害者が加害者に対し損害賠償請求権を有することを前提として、同項所定の要件を具備している場合、被害者が保障事業者たる政府に対し保障を求めうる権利を規定したものであるが、右保障請求権行使の方法は直接金員の給付を求めれば足りる。

理由

自賠法は、加害車が自動車損害賠償責任保険に加入していない場合やひき逃げ等、実際上被害者が救済されない場合に備えて、政府において運輪大臣の管掌の下に自動車損害賠償保障事業を行うこととしているが、(同法第七一条、第八三条)、自動車事故の被害者は加害者に対し損害賠償請求権を有することを前提に、同法第七二条第一項所定の要件に該当する場合、政令で定める金額の限度において、政府に対し直ちにその損害のてん補を請求しうる権利(保障請求権)を付与されている(同法第七二条第一項)。

そして、右の制度の構造、同法第七二条以下の条項をみても、右保障請求権は加害者に対する損害賠債請求権とは別に同法第七二条第一項により創設された権利であるが、その発生および行使の要件として特に所轄行政庁の何らかの処分あることを予定するものでないことは明らかである。

原告のいう被告の昭和四七年八月一五日付「裁決」も被告の単なる支払拒絶の意思表示にぎぬと解され、この意思表示によつて原告の保障請求権に何ら変動が生ずるものではないから、行政事件訴訟法第三条にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為にも裁決にも該当しない。

この被告の意思表示を不服とする原告としては、直接給付の訴を提起することにより自らの保障請求権の実現を図れば足りるのである。

よつて、原告の本件訴は不適法として却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(石川恭 鴨井孝之 富越和厚)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例